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2026.10.08

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コールセンターのカスハラ対策は「努力義務」から「法的義務」の時代へ:現場を守り離職を防ぐには

これまで企業の自主的な取り組みに委ねられることが多かったカスタマーハラスメント(カスハラ)対策は、いまや法律によって全事業主に義務付けられる大きな転換期を迎えています。

2026年10月1日施行の「改正労働施策総合推進法」により、顧客等からの著しい迷惑行為(= カスハラ)に対する従業員の就業環境保護措置が正式に義務化されました。これにより、業種や企業規模を問わず、事業主は従業員の安全と健康に配慮する義務を負うことになります。

以前、弊社のブログでもコールセンターにおけるカスハラ問題について触れ、概念の説明とともに、コールセンター特有の課題や対策ソリューションについて提起しました。しかし当時と異なり、いまやカスハラ対策は「現場のオペレーターがいかに耐えるか」という精神論から、「経営層がいかにデータに基づき、組織を構造的に防衛するか」という具体的なフェーズへ移行していると言えます。

そこで今回の記事では、コールセンターにおけるカスハラ問題についてデータ分析を交えつつ、組織を守るために必要なアクションについて解説します。


過去のカスハラ記事についてはこちら↓

https://www.tactinc.jp/article/customer-harssment-ai-solutions

データから見るカスハラ対策の実情

2025年3月に東京都産業労働局が発表した『カスタマーハラスメントに関する都民意識調査報告書』では、東京都内在住・在勤の15歳以上の男女を対象にアンケート調査が行われました。合計1,194件の回答をもとにした報告では、就業先が「カスハラ対策を行っている」と回答した人は全体の50.6%と、半数をやや上回る結果となりました。

カスハラ対策の内容としては「基本方針の策定・周知」が60.5%で最も多く、次いで「対応マニュアルの整備」が46.4%となっています。このことから、対策を講じている企業の多くは、カスハラの定義づけや、基本的な方針・マニュアルの準備に留まっていることがわかります。

令和7年3月 東京都産業労働局 カスタマーハラスメントに関する都民意識調査 報告書をもとに作成されたカスハラ対策のグラフ


しかし、今回の法改正では、事業主は以下の措置をすべて講じなければならないと定められています。

■事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発

 □カスタマーハラスメントには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発する

 □カスタマーハラスメントの内容及びあらかじめ定めた対処の内容を、労働者に周知する

■相談体制の整備

 □相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する

 □相談窓口担当者が、適切に対応できるようにする

■事後の迅速かつ適切な対応

 □事実関係を迅速かつ正確に確認する

 □被害者に対する配慮のための措置を行う

 □再発防止に向けた措置を講ずる

■対応の実効性を確保するために必要なカスタマーハラスメントの抑止のための措置

■そのほか併せて講ずべき措置

 □相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知する

 □相談したこと等を理由として不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発する

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つまり、アンケートで回答が最も多かった「基本方針の策定・周知」と「対応マニュアルの整備」は、法改正における「事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発」という1つの要件を満たしたに過ぎません。すべての項目を満たしている企業は非常に稀であることがうかがえます。

実際に、義務項目の一つである「相談窓口の設置」を実施しているのは、「カスハラ対策を実施している」企業のうちの31.6%(アンケート全体ではわずか16%)に留まることからも、多くの企業でカスハラ対策が不十分であることが容易に想像できます。

また、カスハラは「顧客・消費者側の一方的な問題」であると勘違いされがちですが、企業側の対応や現場オペレーションの不備が顧客の怒りを買い、カスハラに至ってしまうケースも視野に入れなければなりません。日本コンタクトセンター協会(CCAJ)が実施したカスハラの実態調査データは、極めて重要な示唆を与えています。

従業員がカスハラのきっかけとして挙げた理由のトップは「お客様の無理な要求」(71%)です。しかし、見逃してはならないのが「従業員の接客態度・言葉遣い」(36%)、「商品やサービスの欠陥等」(36%)、「事務処理・手続きのミス」(31%)といった、企業側に起因する理由です。これは「企業側の業務プロセスや現場の運用を改善することで、企業努力でカスハラを減らせる可能性がある」という事実を示しています。

コールセンターにおけるカスタマーハラスメントに関するアンケート調査 ~ カスハラの原因の過半は顧客側にあるものの 企業努力・改善により3割減らせる可能性も ~ より作成


さらに、コールセンター業界における企業側の努力は、顧客対応中だけでなく対応“前”からも重要です。アルティウスリンクが3,000人の消費者を対象に行った「お客様窓口におけるイライラ実態調査」によると、商品・サービスに関して『電話でカスタマーサポートを利用する際、最も不満に感じる場面』について、34.1%が「混雑しており、なかなか案内されない・つながらない」と回答しました。また、「音声ガイダンスの長さ」や「通話料・通信料がかかる」といったプロセスへの不満も含めると、実に61.6%が「電話がつながる前」から不満を抱えていると考えられます。

このような背景から、法改正が求めるカスハラ対策は、マニュアル作成にとどまらず、実効性のある相談体制の構築など多岐にわたります。しかし、重要なのは「従業員を守る体制づくり」だけではありません。企業側の対応不備や電話がつながらないといった「オペレーションの問題」がカスハラの引き金になっている場合があることを、企業側でしっかりと認知しておく必要があります。つまり真のカスハラ対策とは、顧客側に起因する問題への防衛策と、自社でコントロール可能な領域の徹底的な見直しを並行して行い、それぞれに最適な対策を施すことだと言えます。

とはいえ、「多岐にわたる対策を一度に進めるのは難しい」と感じる方も多いのではないでしょうか。そこで次項では、企業が今すぐ実行できる「現場の運用改善」と、根本的な解決に向けて計画的に進めるべき「中長期的な対策」に分けて、具体的なアクションを解説していきます。

企業が「すぐに対策できること(現場の運用改善)」

前述の通り、企業側からカスハラの火種を提供しないためには、自社でコントロール可能な領域の改善が不可欠です。しかし、システムの抜本的な改修や人員増強には時間がかかります。ここでは「明日からでも着手できる現場レベルの防御策」として、3つの具体的なアプローチを解説します。

1. 「言葉遣い・接客態度」のNG基準の共有

オペレーターの不適切な言葉遣いや機械的な相槌は、クレームやカスハラに発展する大きな引き金です。全体の接客スキルを短期間で底上げするのは困難ですが、「お客様の感情を逆撫でするNGワード」や「冷たく聞こえる相槌」など、接客NGリストとして現場で共有することはすぐに可能です。避けるべきコミュニケーションの基準を明確にするだけでも、不要な感情的摩擦を大幅に減らすことができます。

2. 「つながる前のイライラ」を前提とした初期対応の徹底

入電予測の精緻化や人員増強による接続率の改善は中長期的な課題ですが、顧客の待ち時間によるストレスへのケアはすぐに実践できます。例えば、コールセンターの営業開始直後などは電話が殺到し、あふれ呼が発生しやすくなります。そうした状況で電話がつながった際、第一声で「大変お待たせいたしました」と真摯に伝えることで、電話越しでも顧客に寄り添う姿勢を示すことができます。

3. 音声ガイダンスによる抑止力

顧客の攻撃性を和らげる手段として、「品質向上と迷惑行為防止のために録音している」旨を伝える事前告知ガイダンスは非常に有効です。「録音されている」という認識を持たせることで、匿名性を盾にした暴言や理不尽な要求に対して強力な牽制が働きます。自動応答システム(IVR)を導入済みであれば、オペレーターへの接続前に音声設定を変更・追加するだけで比較的短期間で実装可能です。 また、あふれ呼対策として、音声ガイダンスで折り返し連絡を提案することも効果的です。顧客の「待たされている」という感覚を少しでも軽減することで、クレームやカスハラへ発展するリスクを抑えることができます。

企業が「考えなければいけないこと(中長期的な対策)」

前章で解説したような「現場ですぐにできる運用改善」は、自社に起因するカスハラの火種を減らすための重要な初動です。しかし、現場の努力や工夫だけでは、悪意を持った理不尽なカスハラから組織を完全に守り切ることはできません。

1. 対応方針の明確化と周知・啓発

今回の法改正において、「カスタマーハラスメントには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する」という基本方針を明確化し、社内外へ周知・啓発することが第一の義務として求められます。正当なクレームと悪質な要求の線引きが曖昧なままでは、オペレーターもSVも対応に迷ってしまいます。「何がカスハラに該当するのか」の基準と、発生時の対処内容をあらかじめ定め、全従業員に周知します。 コールセンターでは、以下のような対応が考えられます。

■「〇分以上の通話(ATTの〇倍等)」や「〇回以上の架電」など、誰もが客観的に判断できる定量的な基準をマニュアルに明記する。

■「フルネームなど個人情報の執拗な要求」や「特定オペレーターへの指名・執拗な架電」といった行為のカスハラ定義や分類を行う。

■事案発生時は「決して一人で対応させず複数人で対応する」「威嚇や脅迫などの犯罪行為は直ちに警察へ通報する」ことを現場の絶対ルールとして徹底する。

こうした企業の姿勢を対外的に発信し、現場のルールとして徹底することは、悪質クレーマーへの強力な牽制となると同時に、「管理者や会社が自分たちを守ってくれる」というオペレーターへの心理的安全性につながります。

2. 相談体制の整備

カスハラの被害を受けた従業員がためらわずに声を上げられるよう、あらかじめ相談窓口を定め、全労働者に周知する必要があります。CCAJの調査では、カスハラを受けた従業員の約6割が「強いストレスを感じた」と回答しており、初期段階でのケア体制は急務です。 SVや管理者が相談窓口担当者として適切に判断・対応できるよう、マニュアルの整備や研修を実施することが不可欠です。オペレーター個人の判断に委ねず、速やかなエスカレーション体制を構築し、組織として複数人で対応する仕組みを整えます。

3. 事後の迅速・適切な対応

事案が発生した際は、通話録音などの客観的な記録に基づき、SVや管理者が迅速かつ正確に事実関係を確認しなければなりません。その上で、被害を受けた従業員に対して業務担当の変更やメンタルケアを実施するなど、心身の安全を確保するための配慮措置を適正に行うことが求められます。また、事後対応の完了後は事例を分析し、マニュアルの見直しや従業員研修の再実施など、組織的な再発防止策へとつなげます。

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これらの中長期的な体制構築は、法改正に伴い、管理者として確実に対応が求められる実務課題です。しかし、人材確保が難しい現在のコールセンターにおいて、日常の呼量対応やエスカレーション業務と並行しながら新たな体制整備に十分な時間とリソースを割くことは容易ではありません。

そこで、この「現場のリソース不足」という現実的な課題を解決する手段として推奨したいのが、ボイスボット(対話型AI)の導入です。次章では、一次対応の一部をボイスボットに委ねてカスハラリスクをシステム的に抑えつつ、SVやマネージャーの業務時間を「法制化に伴うルールづくりやオペレーターのケア」といった本来の管理業務へどのようにシフトできるのかを解説します。

3. カスハラ対策におけるボイスボットのメリット

① 「NGワードゼロ・待ち時間ゼロ」の一次対応

オペレーターにNG基準を共有し、初期対応の徹底を指導しても、人間である以上NGワードを完全になくすことは困難です。特に配属直後やOJT完了直後の場合は、フローの読み込みや本番の緊張から言葉遣いまで気が回らないことが多々あります。しかし、ボイスボットであれば常に正しい言葉遣いと一定のトーンで対応するため、「顧客の感情を逆撫でするリスク」を極限まで減らすことが可能になります。

さらに、入電数に応じて柔軟に応答を拡張できるため、「電話がつながらない」という顧客の不満を根本から排除できます。ボイスボットのみで完結する業務の場合は24時間365日の受付も可能となり、深夜早朝や祝休日に問い合わせたい顧客の利便性向上にも直結します。

② 音声ガイダンスを越える「相手がAI」という絶大な抑止力

冒頭の自動音声ガイダンスの効果についてはすでにお伝えした通りですが、そこからさらに一歩踏み込み、窓口の一連の応対そのものをAIに任せることで、カスハラ被害を抑制することができます。

課題を抱えたユーザーが有人窓口に問い合わせをする際、カスハラかどうかにかかわらず「頼み込めば要求を通してもらえるかもしれない」という心理が働きがちです。特に日本では『顧客至上主義』が根付いていることもあり、顧客の要望に屈しやすい傾向にあります。

しかし、AIに対しては「設定されていないことはできない」ということを顧客も理解しているため、カスハラに発展しにくくなります。 弊社の実際の事例として、ガス会社の入退去窓口でオペレーターをボイスボットに置き換えた結果、「即時対応しろ」といった無理な要求によるカスハラ問題が見事に解消され、顧客が正規の手続きに従うようになりました。

③ 感情労働からの脱却

人間が対応する場合、カスハラによる精神的なケアが必要不可欠ですが、ボイスボットはどれほど理不尽な言葉を投げかけられても心理的なダメージを受けず、淡々と業務を遂行します。特に督促などの温度感が高くカスハラリスクが高い業務においても、AIを矢面に立たせることは非常に効果的です。

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このように、ボイスボットは極めて強力なソリューションですが、コールセンターの全業務をAIだけで完結させることは現実的ではありません。複雑な要件や、人にしかできない柔軟なサポートなど、必ず有人窓口が必要な領域は残ります。

だからこそ、一次対応をボイスボットに任せるという実務的な役割分担が重要になります。AIが初期対応を担うことでカスハラの発生リスクをシステム的に抑え込み、そこで確保できた時間とリソースを活用して、管理者やSVは「有人対応における明確な切電ルール」「SVへの確実なエスカレーション体制」「被害発生時のケア体制」といった、法制化に対応した本質的な組織づくりを徹底します。

システムによる「一次対応の自動化」と、人による「明確な組織ルール」を連動させる。このハイブリッドな運用体制を構築し、実務的な観点からオペレーターの心身を守る仕組みを作ることこそが、現実的かつ実効性の高いカスハラ対策であり、これからのセンター運営に求められる合理的な判断と言えます。

まとめ:AIと共に組織の未来を創造する

法改正により、カスタマーハラスメント対策はすべての事業主にとって確実に対応すべき法的義務となりました。これからのコールセンター運営に求められているのは、現場の忍耐に頼る運用からの脱却です。「カスハラ認定基準の明確化」「エスカレーション体制の整備」「事後の被害者ケア」といった実務的な組織ルールを早急に構築し、オペレーターを守り抜く仕組みが必要になります。

本記事では、コールセンターにおけるカスハラ対策を「すぐに対策できること(現場の運用改善)」と「考えなければいけないこと(中長期的な対策)」に分けて解説してきました。

■すぐに対策できること: 言葉遣いのNG基準共有、初期対応の徹底、音声ガイダンス等により、企業側に起因するカスハラの火種を最小限に抑える。

■考えなければいけないこと: 法令に基づき、「カスハラ対応方針の明確化と周知」「相談・エスカレーション体制の整備」「事後の迅速な被害者ケア」を実務的なルールとして徹底する。

しかし、人材不足が慢性化するコールセンターにおいて、これらすべての対策を「人の手」だけで並行して進めることは極めて困難です。そこで、ボイスボットを活用してカスハラリスクを未然に抑え込み、創出された時間とリソースを「有人対応のためのルールづくり」や「従業員のケア」に集中させることを提案しました。

ただし、AIやシステムの導入はカスハラ対策という一つの視点に留めるべきではありません。システムによる自動化と、人による密接な対応をうまく両立させることは、実効性と可用性の高い次世代のコールセンターにおいて必要不可欠です。この法改正を好機とし、ぜひ一度、自社の運用を一から見直してみてはいかがでしょうか。

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